アンチマネーローンダリング関連システム
AML/CFT関連システムの概要
マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策について、その歴史からFATF第4次審査やマネロンガイドラインの内容に触れた後に、AML/CFTシステムの概要を説明します。
日本におけるAML/CFTの歴史
日本におけるAML/CFT(マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策)の歴史は、1989年に設立されたFATF(金融活動作業部会)への加盟、および、1990年にFATFが策定した「40の勧告」を契機に本格化しました。1990年代には、覚醒剤取締法や組織的犯罪処罰法の改正を通じて、犯罪収益の隠匿を防止する仕組みが整備されました。
2000年代に入り、テロ対策特別措置法や金融機関に対する本人確認義務の導入が進みました。しかし、2008年のFATF第3次対日相互審査では、日本の対策が不十分(49項目のうち10項目で不履行評価)とされ、特に実効性の低さが指摘されました。この結果を受け、2010年代には犯罪収益移転防止法の改正や、金融機関におけるAML/CFT管理態勢の強化が進められました。
FATF第4次対日相互審査結果とその後のフォローアップ
2019年に実施され、2021年に結果が公表されたFATF第4次対日相互審査では、日本のAML/CFT対策の進展が評価される一方、依然として複数の課題が指摘され、結果的に「重点フォローアップ国」に指定されています。(法令等整備状況で11項目、有効性審査で8項目が合格水準に達しないという評価)
なお、FATFが直接審査を実施した30か国の中で、合格水準とされる「通常フォローアップ国」となったのは8か国に留まる一方で、「重点フォローアップ国」には米国やカナダ、シンガポール、中国、韓国などが含まれています。日本もこれらの国と同水準と評価されたということになります。
これを受けて、日本では金融庁を中心にフォローアップ対策を実施しました。例えば、金融機関に対するマネロンガイドライン改定や、監督機関と業界団体の連携強化が進められました。さらに、資金決済法の改正により、 為替取引分析業が創設され、全銀協主導で株式会社マネー・ローンダリング対策共同機構が設立されました。これらの取り組みにより、日本はその後のFATF第4次対日相互審査のフォローアップ報告で一定の改善を示しています。
また、FATF第5次審査は2028年8月に実施されることが発表されており、 第5次審査では、AML/CFTの運用実態の評価(有効性評価)がより重点的にチェックされると言われています。単なる法令整備や形式的な体制・プロセス整備の段階は終わり、より実態的なAML/CFT管理態勢の構築に向けて、各金融機関における継続的な取組みが求められています。
金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(2018年および2021年改正)の概要
金融庁は2018年に「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を公表し、金融機関に対するAML/CFT対策の指針を示しました。このガイドラインは、リスクベース・アプローチ(RBA)の導入を求め、金融機関が自らのリスクを特定・評価・緩和するプロセスを確立することを目的としています。
また、取引モニタリング・フィルタリングや顧客確認の強化などが示されました。その後の2021年の改正では、FATF第4次対日相互審査で指摘された課題を反映し、ガバナンス強化や継続的顧客管理の重要性、取引モニタリング・フィルタリングシステムの強化などが追記されました。
さらに金融庁では、2018年以降、ほぼ毎年「マネーロンダリング等対策の取組と課題」などの定点レポートを公表しています。これらのレポートでは日本や海外における規制動向や他金融機関動向、業界全体としての課題が記載されていることから、これらのレポートも必要に応じて参照することが推奨されます。
AML/CFT関連システムの概要
各金融機関のアンチマネー・ローンダリング/CFT管理システム(AML/CFT管理システム)は、上記のような金融庁やFATFの動向やガイドラインを遵守するために、重要な役割を果たしており、複数のシステムから構成されています。
大分類として、取引データに関して定期的に「疑わしい取引」の検知を行うための「モニタリングシステム」と、顧客や送金人、受取人が反社会的勢力やテロリスト等に合致しないかチェックするための「フィルタリングシステム」、顧客リスク格付けや継続的顧客管理を実現する「継続的顧客管理システム」の3種類が存在します。また、本人確認という観点では、eKYCシステムも関連します。
「モニタリング」と「フィルタリング」の定義
金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」においては、以下を行うことをそれぞれ「取引フィルタリング」「取引モニタリング」と定義しています。
なお、一般的に「フィルタリング」の中でも期中に定期的に実施するフィルタリングを「スクリーニング」として区別する場合もあります。
- 取引フィルタリング
- 取引前や経済制裁対象者等リストが更新された場合等に、取引関係者や既存顧客等について経済制裁対象者等のリストとの照合を行うこと等を通じて、経済制裁対象者等による取引を未然に防止することで、リスクを低減させる手法
- 取引モニタリング
- 過去の取引パターン等と比較して異常取引の検知、調査、判断等を通じて疑わしい取引の届出を行いつつ、当該顧客のリスク評価に反映させるこ とを通じてリスクを低減させる手法
FATF第4次相互審査における取引フィルタリング・モニタリングの評価
FATF第4次相互審査において、日本の金融機関の取引フィルタリング・モニタリングに関して、以下の評価がされています。これらの結果を踏まえて、各金融機関ではAML/CFTシステムに対する強化が求められています。
FATF第4次審査での評価
- 取引フィルタリングシステムについては、ほとんどの金融機関で導入されているが、効果は限定的。
-
取引モニタリングシステムについては、
- 適切なシステムを導入しているのは、非常に限られた数の金融機関
- システムを導入していない金融機関も多く、導入している多くの金融機関では、誤検知が多く、その有効性が不十分
- 業界団体の中にはシステムの共同化の動きがあり、AML/CFTに係る義務の履行を改善するために役立つツールとなりうる
- 金融機関が、顧客管理のデータと取引モニタリングを統合した、適切かつ包括的な情報システムを導入することを確実に履行すべき。
AML/CFT関連システムの概要図
以下にAML/CFT関連システムの概要図を示します。各金融機関により、システム構成は大きく異なります。
AML/CFT関連システムの機能概要
モニタリングシステム
モニタリングシステムとは、勘定系システムや国際系システムから取引データを受領し、定期的に「疑わしい取引」の発生有無を検知するためのシステムです。
事前に、疑わしい取引の検知パターンを各金融機関のリスク特性に応じて設定する必要があります。金融庁が公表している「疑わしい取引の参考事例」や各金融機関で過去に発生した疑わしい取引事例が参考になります。
また、疑わしい取引の検知については、単一取引では閾値に達しないものの、複数の同種取引を組み合わせると閾値を超過するような取引についても検知する機能も備えています。さらに、単なる取引データだけではなく、IPアドレスや端末情報(ユーザーエージェントなど)も組み合わせて不審な取引を検知できるようになっています。
モニタリングシステムにおいて検知した疑わしい取引については、所定フォーマットに記載して、所管行政庁への届出が義務づけられていますが、この届出の作成補助機能を有しているシステムもあります。
フィルタリングシステム
フィルタリングシステムとは、口座開設顧客や為替送金人、為替受取人などが、各金融機関が事前に設定した照合リスト(ウォッチリスト)に合致するか否かをチェックするシステムです。
口座開設や現金取引等の特定取引時にチェックするフィルタリング処理と、リスト更新されたタイミングで既存顧客をチェックするスクリーニング処理があります。
また、ウォッチリストの網羅性や一貫性の維持、最新化は重要なタスクです。ウォッチリストに不備がある場合、フィルタリング処理が適切に実施できなくなる可能性があります。リストの内容は、業界団体、財務省、暴力団追放センター、OFAC(SDNリスト)など多くの情報源をもとに常にメンテナンスする必要があります。外部の情報ベンダーからリストを正規化された情報を入手することも推奨されます。
フィルタリングシステムは、勘定系システムや国際系システムに組み込まれて、取引電文をチェックし、リストに合致した取引を自動的に保留する形態のものと、勘定系システムや国際系システムとは別筐体のシステムを準備し、口座開設時に個別にチェックするほか、定期的に取引電文を一括でチェックする形態のものがあります。
また、フィルタリングは、顧客の氏名・住所・生年月日等をもとに照合リストとの比較を行いますが、表記揺れや意図的な誤入力を防止するために、「あいまい検索機能」を有しています。
継続的顧客管理システム
継続的顧客管理とは、金融機関が、顧客の本人確認や口座の利用目的などの確認やリスク評価を定期的に行うことで、マネー・ロンダリングや不正利用を防ぐ取り組みです。特に金融庁のマネロンガイドラインにおいて、下記のような事項で継続的な顧客管理が求められています。
- 取引類型や顧客属性等に着目し、これらに係る自らのリスク評価や 取引モニタリングの結果も踏まえながら、調査の対象及び頻度を含む 継続的な顧客管理の方針を決定し、実施すること
- 継続的な顧客管理により確認した顧客情報等を踏まえ、顧客リスク評価を見直し、リスクに応じたリスク低減措置を講ずること。特に、取引モニタリングにおいては、継続的な顧客管理を踏まえて見直した顧客リスク評価を適切に反映すること。
継続的顧客管理の実施方法には、次のようなものがあります。
- 顧客に質問票を郵送して、既存の登録情報の有無を確認する。
- WEBやインターネットバンキング上にWEBフォームを設置して回答してもらう。
- ダイレクトメールや電話で顧客情報を確認する。
- ATM操作時に登録情報の更新を可能にする。
金融庁は、2024年までに全ての口座の顧客情報を取得しリスク評価を行い、継続的顧客管理を徹底することを求めています。また、その後も継続的に顧客管理・リスク評価を実施していくために、これらのプロセスをサポートするシステム化が必須となっています。
個別システムの概要
アンチマネーロンダリングシステムを構成する個別システムの概要については、各解説ページを参照ください。
本人確認・eKYCシステム
eKYCシステムとは、オンライン上で本人確認を行う技術やサービスです。本人確認書類と本人の顔写真などの画像をオンラインで送信する方法や、マイナンバーカードのJPKI電子署名を検証する方法により、身元確認を完結させます。
製品・サービス一覧
アンチマネーローンダリング関連システムの製品・サービス一覧は、以下のページを参照ください。