勘定系システム
勘定系システムの概要
勘定系システムの歴史
銀行システムの章でも記載した通り、各銀行は数十年にわたって多大なるコストをかけ、世界に類を見ないほどの巨大かつ信頼性の高い勘定系システム(ポスト3次オンラインシステム)を独自に構築してきました。
しかし、その後のバブル崩壊や金融ビッグバンによって、銀行等の統廃合が進んだ結果、勘定系システムに要するコスト削減を目的として、主要行においてはシステム統廃合、地方銀行においてはシステム共同化、協同組織金融機関においては共同センタへの加盟が進められてきました。
これまでの勘定系システムは、高い信頼性・可用性を重視してきたこと、及び過去のアプリケーション資産を利活用できることなどの理由から、大型のメインフレームを採用してシステムが構築されることがほとんどでした。
しかしながら近年は、オープン系システム(UNIXやLinux、Windows)を採用した勘定系システムパッケージが複数登場したことを受けて、複数の銀行において、オープン系勘定系システムの構築事例が増えてきています。
一方で、既存メインフレーム上のアプリケーション資産をオープン系勘定系システムに移植する場合、多大なコストと時間を要するため、現時点ではメインフレームを継続利用したり、オープン系システムとのミックス構成のほうが現実的という声もあります。
勘定系システムのトレンド
モダナイゼーション・クラウドファースト
勘定系システムは歴史的に高度に進化してきた一方で、複雑化やレガシー化の問題を抱えている事例も少なくありません。
多くの銀行がメインフレームを基盤としたレガシーシステムから脱却を目指し、オープン技術やクラウドを用いた勘定系システムのモダナイゼーションにチャレンジしています。
また、一部の先進的な銀行では、パブリッククラウド上にコンテナ技術やマイクロサービスアーキテクチャを用いて勘定系システムを構築する事例も出現してきています。
オープンバンキング(API)・BaaS
金融庁などが推進してきたオープンAPI戦略により、外部のFinTech企業やデジタルサービス企業と連携した新しい金融サービスの提供が重要視されており、勘定系システムもオープンAPI連携が求められています。
具体的には、オープンAPIに対応した認証基盤やトランザクション負荷対応、更新系API対応などが必要となってきており、これらの機能をオープンAPI基盤の構築や外部センター利用でカバーする動きも進んできています。
また、近年ではBaaS(Banking as a Service)の普及が進み、銀行の勘定系システムを外部企業に提供する形での新しい収益モデルも注目を集めています。
具体的には、銀行代理業や金融サービス仲介業を活用して、銀行がシステムと業務プロセスをセットで外部企業に提供するものです。このように自社だけではなく外部企業と連携したサービス提供がしやすい勘定系システムが求められつつあります。
勘定系システムの概要図
以下に、メインフレームを使用した場合の典型的な勘定系システムの概要図を示します。各銀行により、システム構成は大きく異なります。
また、参考にパブリッククラウド上にコンテナ技術やマイクロサービスアーキテクチャを活用した勘定系システムの構成例を示します。
勘定系システムの機能概要
勘定系システムの各機能概要について説明します。
(1) オンライン処理機能
オンライン処理機能は、ATMや営業店窓口端末、インターネットバンキングなどから発生する取引電文をリアルタイムに処理する機能です。取り扱う業務としては、預金・融資・為替・顧客管理・自振業務など、銀行の主たる業務を取り扱っています。また資金移動取引が発生する場合には、勘定仕訳用の貸借取引が自動的に内部起票され、総勘定元帳を自動的に更新する機能を有しています。
かつての勘定系システムでは、これらの主要業務を全て自システム内で処理することが一般的でした。しかし現在では、個別業務やインターフェース処理を中心に周辺システムへ外出しして、勘定系システムのオンライン処理機能をスリム化する動きが出てきています。例えば、融資業務を融資統合システムへ、顧客管理業務を顧客統合システムへと追い出す事例があります。
(2) バッチ処理機能
バッチ処理機能は、オンライン処理で更新した元帳データや取引データを入力として、日次や月次で一括(非リアルタイム)で各種処理を行う機能です。具体的には元帳データや取引データを集計して管理計数帳票を作成したり、周辺系システムへのインターフェイスファイル作成などを行います。
バッチ処理は、オンライン処理ほどの可用性は求められないものの、仮に日次処理が異常停止し翌朝のオンライン開始時間までに完了しない場合、各種計数が未反映のまま業務を開始する必要があるなど、大きな影響を与える可能性があります。
また、バッチ処理の性能はCPU能力やI/O処理能力(ディスク性能等)に大きく依存しているため、近年では、バッチ処理を安価なオープン系システムで再構築する動きも見られます。
(3) センタカット処理機能
センタカット処理(センタ一括処理とも言う)は、大量の定型オンライン取引を勘定系システム内で一括して実施する処理です。バッチ処理とは異なり、オンライン元帳を直接更新します。代表的な処理としては、流動性預金の利息決算処理、口座振替処理、定期預金の満期処理(自動継続等)などがあります。
仮にセンタカット処理で処理停止や処理誤り(計算ミス等)が発生した場合、その影響は単一顧客や単一口座に留まらず、銀行全体に大きな影響を及ぼしてしまいます。このためセンタカット処理には通常、2重起動防止機能や中途再開機能が準備されています。
(4) バックアップ機能(災害対策機能)
上述の通り、仮に勘定系システムが停止した場合は、銀行業務全体が停止することになりかねないため、ほとんどの金融機関は、勘定系システムのバックアップシステム(災害対策システム)を構築しています。
特に東日本大震災を契機に、バックアップ機能についてさらなる高度化が図られており、バックアップセンタの遠隔化やバックアップ対象業務の拡大、バックアップセンタへの切替時間の短縮化等が図られています。
各業態における勘定系システム
(1) 主要行等
主要行、信託銀行、ネット専業銀行等は、地方銀行や協同組織金融機関とは異なり、共同センタを利用せずに独自でシステムを構築しているところがほとんどです。また、一部の主要行において、オープン系システムで勘定系システムを再構築する動きも見られます。
このほか、ネット専業銀行は、商品性が絞られること及び比較的近年にシステムを構築していることなどから、オープン系システムとパッケージを使用してシステムを構築しているところが多いようです。
以下に主な主要行等における勘定系システムの概要を紹介します。
(2) 地方銀行
地方銀行(第2地銀含む)では2025年現在、約9割の地銀が共同センタに加入(または加入予定)しており、共同センタへの加入の動きは概ね一段落した状況です。
一方で、地銀同士の経営統合・連携の動きやシステムモダナイゼーション、共同化の共同化などの動きが出てきています。「共同化の共同化」の動きについては次項で紹介します。
以下に地銀における勘定系システムの共同化の現状を示します。(2025年1月現在)
なお、別ページで勘定系システムの一覧を各銀行単位でまとめました。以下のボタンをクリックして参照下さい。
(3) 協同組織金融機関
信用金庫及び信用組合では1970年代から、勘定系システムの共同化が進められてきました。当初の共同センタ加盟率は高くなかったようですが、現在においては、それぞれの業態とも9割以上の信金・信組が共同センタに加盟しています。
また、JAバンクはJASTEMシステム、労働金庫はアールワンシステムでそれぞれ勘定系システムが共同化されています。
なお、別ページで勘定系システムの一覧を各信用金庫単位でまとめました。
共同化の共同化
地方銀行のシステム共同センターにおいて、「共同化の共同化」という取り組みが進みつつあります。
これまでは自営システムの銀行が共同センターに移行していくという流れが主流でしたが、共同センターへの移行の流れが一巡したことを受けて、ITベンダ主導で、既存の共同センター同士が連携し、更なる効率化を目指す動きが広がっています。
具体的には、共同センター同士でプラットフォームやネットワーク、システム・アーキテクチャを共同化することで、さらなるコスト削減やレジリエンスを高めることを狙いとしています。
ここでは「共同化の共同化」の動きとして代表的な2陣営の動きを紹介します。
NTTデータの統合バンキングクラウド構想
NTTデータは、同社が提供する共同利用型勘定系システムを段階的に統合バンキングクラウドに搭載することを目指しています。2028年に地銀共同センターを統合バンキングクラウドに移行した後、すでにオープン化を実現したMEJARについて2030年頃の適用を目指すとしています。
また、STELLA CUBE、BeSTAcloudのほか、しんきん業態等の他業態への拡大を検討するとしています。
日本IBMと三菱UFJ銀行による地域金融機関向けメインフレーム共同プラットフォーム構想
日本IBMと三菱UFJ銀行などは、IBM製メインフレームを利用する地域金融機関向けに「メインフレーム共同プラットフォーム」を提供することを公表しています。
メインフレーム基盤のハードウェアおよびソフトウェアの共同利用を実現し、地域金融機関の勘定系システムの信頼性と継続性の維持、それらを担う人材維持や経済合理性を確保しながら、メインフレーム活用をより持続可能な形に発展させていくとしています。
すでに、地銀システム共同化グループの「じゅうだん会」と「Flight21」がこの共同プラットフォームの採用を決定しており、「Chance」も採用を検討しています。(TSUBASA陣営の採用検討状況は不明です。)
各地銀・信金での勘定系システム一覧
各地銀・信金での勘定系システム一覧を別ページでまとめています。
地方銀行の勘定系システム一覧
2025年1月現在における、各地方銀行の勘定系システムを一覧で整理しています。
信用金庫の勘定系システム一覧
2025年1月現在における、各信用金庫の勘定系システムを一覧で整理しています。
製品・サービス一覧
勘定系システムの製品・サービス一覧は、以下のページを参照ください。